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名古屋地方裁判所 昭和48年(行ウ)18号 判決

原告 太田鉱一

被告 昭和税務署長

代理人 岸本隆男 太田健治 ほか三名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事  実〈省略〉

理由

第一本件更正処分の経緯について

請求原因一、二の事実(本件更正処分の経緯)については当事者間に争いがない。

第二本件更正処分の適否について

一  原告が本件係争年当時、株式会社白十字の代表取締役として同社に勤務するかたわら、不動産貸付を行つていたことは当事者間に争いがない。

二  不動産所得について

(一)  本件係争各年分における原告の不動産所得に関する総収入金額のうち、「地代」・「家賃」(四ツ谷ビル以外の収入金額)・「広告板用貸地代」、必要経費のうち、「火災保険料」・「修繕費」(但し昭和四五年分のみ)・「雇人費」・「借入金利子」・「消耗品費」(昭和四四、四五年分)・「雑費」・「水道料」(昭和四三年分)が被告主張額(別紙二の(一)ないし(三)の各「総所得金額計算表」の各該当欄参照。)であることは当事者間に争いがない。

(二)  四ツ谷ビル関係収入金額について

1 原告が千種区四ツ谷通三丁目二四番地に四ツ谷ビルを所有し、賃貸の用に供していたこと、昭和四三年分賃貸料収入は尾白及び可知を除くその余の入居者に関する分についてそれぞれ被告主張額(別紙三の(一)「四ツ谷ビル関係収入明細(昭和四三分)」の「賃貸料(共益費含)・被告主張額」欄参照。)のとおりであること、昭和四四年分賃貸料収入は尾白、可知及び村岡を除くその余の入居者に関する分についてそれぞれ被告主張額(別紙三の(二)「四ツ谷ビル関係収入明細(昭和四四年分)」の「賃貸料(共益費含)・被告主張額」欄参照。)のとおりであること、昭和四五年分賃貸料収入は被告主張額(別紙三の(三)「四ツ谷ビル関係収入明細」(昭和四五年分)」の「賃貸料(共益費含)・被告主張額」欄参照。)のとおりであること、本件係争各年分におけるその他の収入(水道料相当額)が被告主張額、すなわち昭和四三年分五万六、三六四円、昭和四四年分二三万七、九〇九円、昭和四五年分三三万五、八八一円であることはいずれも当事者間に争いがない。

2 賃貸料収入中、尾白、可知及び村岡に関する分について

(1) 尾白が昭和四三年八月頃から同四四年二月頃までの間四ツ谷ビルに入居していたこと、同人に対する昭和四三、四四年分の賃料が月額三万三、〇〇〇円であつたことは当事者間に争いがないから、同人に対する昭和四三年分賃貸料は一六万五、〇〇〇円、昭和四四年分賃貸料は少なくとも三万三、〇〇〇円(被告主張額)となる。

なお、原告は、尾白に対する昭和四四年分賃貸料は八万八、〇〇〇円である旨主張するが、右金額がいかなる根拠に基づくものであるか明らかではないし、右主張事実を認むべき証拠はない。

ところで、昭和四三年八月一九日付で東海銀行滝子支店の原告名義当座預金に尾白から賃料として三万三、〇〇〇円が入金されていることは当事者間に争いがないが、その余の賃料について、尾白から原告に対し、現実に支払いがなされたことを認むべき証拠はない。

この点について、原告は、〈1〉尾白からは保証金の預託がなされていないこと、〈2〉尾白には貸室の使用方法に関する契約違反があつたために、原告は、昭和四三年中に賃貸借契約解除の意思表示と貸室明渡しの要求をしたので、同人については昭和四三年一〇月分以降賃料債権は発生しておらず、又同年九月分については回収不能と認めて放棄したこと、〈3〉入金のあつた前記三万三、〇〇〇円は尾白に対する貸室の補修費の一部に充てたことなどを理由に、尾白に対する前記賃貸料は全額収入金額にならない(回収不能)である旨主張する。

しかしながら、後記3に認定のとおり、原告は、四ツ谷ビル入居者との間に賃貸借契約を締結した際、各入居者から保証金(右保証金の金額は大部分の入居者について賃料の六か月分相当のものである。)の預託を受けており、本件全証拠によるも、原告が尾白について例外的な取扱いをすべき特段の事情は見出すことができないこと及び弁論の全趣旨によれば、他の入居者と同様、尾白も賃料の六か月分に相当する保証金を、入居に際し原告に預託しているものと推認するのが相当であつて、右推認を覆すに足る証拠はなく、尾白からは保証金の預託がなかつた旨の原告の右主張は採用し難い。そして、当該保証金が原告より尾白に返還された旨の主張・立証はない。

そうすると、尾白に返還することを要しない償却費相当分(返還不要保証金の趣旨については後記3に判示するとおりである。)を控除しても、その余の保証金額をもつて、少なくとも未払賃料の一部は充当されているものと認めるのが相当である。

さらに、尾白に原告が主張するごとき貸室使用上の契約違反及びそれに関連する紛争等があつたことを認むべき証拠はなく、残余の未払賃料が客観的に回収不能であつたことを認むべき証拠もない。

また、原告が尾白の居室を補修したことを認むべき証拠はないが、仮にその事実があつたとしても、補修に要した費用は尾白が原告に預託した保証金の中から控除されるべきものであり、賃料として支払われた金員から当然に充当されるべきものではないから、賃料として収受された前記三万三、〇〇〇円が賃貸料収入金額となることは明らかである。

右のとおりであるから、原告の前記主張は理由がなく、被告が、原告の尾白に対する前記賃貸料を昭和四三、四四年分の各収入金額に計上したことは正当というべきである。

(2) 可知が昭和四三年七月頃から同四四年二月頃までの間四ツ谷ビルに入居していたこと、同人に対する昭和四三、四四年分の賃料が月額三万三、〇〇〇円であつたことは当事者間に争いがないから、同人に対する昭和四三年分賃貸料は一六万五、〇〇〇円、昭和四四年分賃貸料は少なくとも三万三、〇〇〇円(被告主張額)となる。

なお、原告は、可知に対する昭和四四年分賃貸料は八万八、〇〇〇円である旨主張するが、右金額がいかなる根拠に基づくものであるか明らかではないし、右主張事実を認むべき証拠はない。

ところで、<証拠略>によれば、可知は四ツ谷ビルへの入居に際し、賃貸借契約の仲介を行つた不動産業者である株式会社水野商店に対し、預託保証金、賃料及び仲介料として、二六万円ないし二七万円を支払つたことが認められ、これに反する証拠はない。右事実によれば、右金員中、賃料の六か月分相当の金額(一九万八、〇〇〇円)は保証金として原告に預託されたものと推認するのが相当であつて、保証金の預託は受けていない旨の原告の主張は採用し難い。

そして、原告が右保証金を可知に返還したことの主張・立証はない。

<証拠略>によれば、可知は、被告係員の調査に対して、賃料は多少の遅滞はあつたものの全額支払ずみである旨申述していることが認められ、右事実によれば、可知は、昭和四三、四四年分の賃貸料を支払つたものと推認できる。(仮に、原告が主張するような経緯で、可知より原告に対する賃料の支払いがなされなかつたとしても、前記保証金をもつて未払賃料は充当されているものと認めるのが相当であり、仮に一部不足があつたとしても、その未払賃料について客観的に回収不能であつたことを認むべき証拠はない。)。

そうすると、被告が、原告の可知に対する前記賃貸料を昭和四三、四四年分の収入金額に計上したことは正当というべきである。

なお、原告は、可知に対し、退去の際移転料名義で若干の金員を支払つた旨主張するが、右事実を認むべき証拠はないし、仮に右のような事実があつたとしても、右賃貸料収入自体には何ら消長を及ぼすべき事由とはならないものである。又、仮に、原告が可知に対し、エレベーター事故に関連して見舞金を支払つたとしても、これ又、右賃貸料収入に変動を生ぜしめるものではないことは明らかである。

(3) 村岡に対する賃料が月額三万五、〇〇〇円であつたことは当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば、村岡が四ツ谷ビルを退去したのは昭和四四年七月三一日であり、同人は同月分までの賃料を原告に支払つたことが認められ、これに反する証拠はない。

右認定に反する証拠はなく、原告の主張は採用し難い。

従つて、原告の村岡に対する昭和四四年分の賃貸料収入は二四万五、〇〇〇円である。

3 返還不要保証金について

(1) 原告が有限会社光金属工業所より預託を受けた保証金中、同社に返還しなかつた三万一、〇〇〇円が原告の昭和四三年分収入金額となること、原告が株式会社中日ドラゴンズより預託を受けた保証金中、同社に返還しなかつた六万二、〇〇〇円が原告の昭和四四年分収入金額となることは当事者間に争いがない。

(2) <証拠略>を総合すると、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

イ 原告は、本件係争各年分である昭和四三、四四、四五年中に、別紙三の(一)ないし(三)の各「四ツ谷ビル関係収入明細」の「入居者又は契約者名」欄記載の者と四ツ谷ビルの貸室賃貸借契約を締結し(但し、昭和四四、四五年分中、その前年もしくは前々年と重複するものは契約継続中のものである。)、各該当する「部屋名」記載の室を引渡したが、右賃貸借契約の締結及び貸室の引渡しに際し、右各入居者(但し、嘉戸工務店を除く。)より保証金の預託を受けた。

そして、同時に、原告は、一部を除く入居者との間で、口頭あるいは契約書をもつて、「賃貸借契約を解除する時は預託保証金のうちより保証金の二割を償却費として控除し、残金を賃貸人(原告)は賃借人に返戻すること」なる旨の、もしくは念書または、覚書をもつて、「賃貸借契約を解約する時は預託保証金のうちより一定金額、もしくは家賃の数月分の金員を償却費として支払する事を約束する」旨の約定をなし、原告は入局者との間に、預託保証金の一定割合又は一定金額に相当する金額を償却費として収受し、右償却費を控除した残額を賃貸借契約終了の際賃借人に返還する旨の特約が締結された。

そして、昭和四三、四四、四五年中において、それぞれ右特約を締結した入居者及び原告が右特約に基づき収受し得る償却費、すなわち返還不要保証金の金額は、別紙三の(一)ないし(三)各「四ツ谷ビル関係収入明細」の「入居者又契約者名」・「返還不要保証金」各欄に記載のとおりである。

ちなみに、入居者より原告に預託された保証金は、賃料の六月分が大部分であり、右保証金のうち償却費相当分、すなわち返還不要保証金の金額は殆んど賃料の二月分相当額である。

なお、入居者のうち、千代田生命保険相互会社、戸田染工株式会社、日本放送協会は返還不要保証金に関する特約を締結していないが、その預託保証金は賃料の一〇月分以上となつている。

ロ 有限会社光金属工業所は、昭和四三年八月一〇日に四ツ谷ビルに入居し、同年九月三〇日に同ビルを退去しているが、前記のとおり、原告は預託保証金のうち三万一、〇〇〇円を償却費として収受し、同社に返還しておらず、また昭和四三年中に四ツ谷ビルに入居した株式会社中日ドラゴンズ、若松富蔵、立半治は昭和四四年中に同ビルを退去しているが、原告は右各入居者が預託した保証金のうち賃料の二月分を償却費として収受し、右各入居者に返還していない。

当初の賃料額がその後改訂(増額)された場合の例についてみると、芳賀福次は昭和四三年七月に四ツ谷ビルに入居し、同四七年七月に同ビルを退去したものであり、その間に賃料の改訂(増額)がなされたが、同人が退去の際預託保証金より控除された金額は、前記特約締結時の賃料の二月分相当額であつた。

石井裕重は、昭和四三年七月四ツ谷ビルに入居し、同四八年七月に右ビルを退去したものであるが、右芳賀の場合と同様、賃貸借期間中に、賃料の増額があつたにもかかわらず、償却費として控除された金額は当初の賃料の二月分相当額であつた。

このように、償却費の額につき、賃料の何月分という定めのあるときは、賃料が増額されても当初の賃料額を基準とするのが通例であつた。

以上の事実によれば、原告と四ツ谷ビル入居者との間の前記特約は、要するに、賃貸借期間の長短等には全く関係なく、入居者は契約終了事由の如何を問わず、一定金額(家賃の数月分というように取決められている場合も当初の家賃を基準として計算するのが通例であるから、計算額は一定金額となる。)あるいは保証金の一定割合に相当する額を償却費として原告に支払う義務があり、一方原告としても契約終了の際、償却費相当額を保証金から控除して、その残額を賃借人に返還するということを内容とするものであつて、右償却費なるものは、契約の当初から返還を要しないことを当然の前提として授受されるものであるから、いわゆる権利金の性質を有するものと解するのが相当である。

(3) ところで、所得税法三六条一項に「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする。」と規定されているところ、右「収入すべき金額」とは「収入すべき権利の確定した金額」の意であると解するのが相当である。

(4) これを本件についてみるに、前記のとおり原告が賃借人から預託を受けた保証金のうち償却費相当部分、すなわち、返還不要保証金は、契約あるいは覚書もしくは念書等によつて、その金額が特定されており(家賃の何月分の約定における家賃とは契約時の家賃を指すことは前記のとおり。)、しかも、賃貸借契約締結時点において、返還を要しない金員であることが確定しているのであるから、原告は右償却費相当部分をその時点以降自由に処分・収益の用に供し得る経済的利益を取得しているものというべきである。従つて、前記特約に基づき授受された償却費相当部分は、授受された時点において、収入すべき権利として確定したものと解するのが相当である。

そうすると、被告が、別紙三の(一)ないし(三)の各「四ツ谷ビル関係収入明細」の「返還不要保証金」欄記載の各金額を本件係争各年分における原告の不動産所得に計上したことは正当というべきである。

以上の説示に反する原告の主張は、採用できない。

4 前受賃貸料収入について

(1) 原告と各賃借人との間で締結された四ツ谷ビル貸室の賃貸借契約において、「賃借料は毎月二五日までに翌月分を支払うものとする。」旨の約定がなされており、右約定に基づいて、原告が昭和四三、四四年中に別紙三の(一)(二)の各「四ツ谷ビル関係収入明細」の「前受賃貸料」欄記載の前受賃料を受領していることは当事者間に争いがない。

(2) ところで、先に説示したとおり、所得税法三六条一項にいう「収入すべき金額」とは、収入すべき権利の確定した金額をいうと解するのが相当であるところ、原告は、前受賃料については、対応する期間の賃貸物用益の提供がなされるまでは賃料請求権は確定せず、所得税法上の「収入すべき金額」に該当しない旨主張する。

そこで考えるに、賃料は、賃貸物の使用収益の対価として支払われるものであるから、もし賃貸借契約条項中に賃借人が前受賃料の返還を請求し得る場合が規定されている場合や、規定されていなくとも、賃貸借契約の性質上当然に返還請求をなし得る場合が予想されるときは、前受賃料がその約定支払日に、賃貸人において「収入すべき金額」として確定するとはいえない筋合である。

これを本件についてみれば、<証拠略>によれば、原告と四ツ谷ビル入居者間の賃貸借契約一七条(又は一八条)には、賃借人の賃貸借契約解約権の行使につき、被告主張のとおりの条項が存し、右契約四条には、一月未満の賃借物の用役につき、被告主張のとおりの日割計算ないし一月分支払の条項が存することが認められ、他方賃貸人の解約権の行使については何らの定めがないから、借家法二、三条による制限に従うこととなる。

してみると、賃借人が、予告することなく賃貸借契約を解約する場合は、目的物たる貸室を現実に用役したか否かに関係なく、常に一月分又は三月分あるいは六月分の賃料を支払わなければならず、また、約定どおり一月前に予告したときは、予告した日の直近に到来する賃料の支払日の翌日から、翌月の予告に相当する日までの賃料を、約定賃料支払日に日割計算をして支払わなければならないことになる(日割計算をしない約定のときは、一月分又は三月分もしくは六月分を支払うことになる)。

これを要するに、本件賃貸借契約条項に即して考えれば、賃貸人である原告が、前受賃料の全部もしくは一部を賃借人に返還しなければならない事態は予想されていないというべきである。

もつとも、賃借人の責に帰すべからざる事由による賃借目的物の使用不能の事態が生じたときは、別論となるわけであるが、このような事態の発生は極めて異例のことというべく、また本件全証拠によるも、本件前受賃料につき、かかる事態の発生が当事者間に予想されていたとは認められない。

従つて、賃貸人である原告は、約定支払日に前受賃料支払請求権を行使でき、かつ、収受した前受賃料を返還する要は殆んどないことになるから、右前受賃料は約定支払日に「収入すべき金額」として確定すると解するのが相当である。

なお、昭和四八年一一月六日付直所二―七八の国税庁長官通達「不動産等の賃貸料にかかる不動産所得の収入金額の計上時期について」において、「不動産等の賃貸料にかかる収入金額は、原則として契約上の支払日の属する年分の総収入金額に算入することとしているが、不動産の貸付が事業的規模で行われている場合で、継続的な記帳に基づいて不動産所得の金額を計算し、前受賃料を収益から控除し前受収益という負債として次期に繰り越す会計処理が継続的に明確になされているなど同通達一項に規定する一定の要件を具備している場合には、その年の貸付期間に対応する賃貸料の額をその年分の総収入金額に算入することができる。」旨定められているが、右通達の趣旨は、所得税法が、期間損益決定のための一般的判断基準として採用している権利確定主義の例外として、会計原則として定められている前受収益の会計処理を特定の要件の下に認めたものと解すべきところ、<証拠略>によれば、原告は賃貸料収入を継続的に、かつ明確に記帳した家賃台帳等の帳簿を整備していず、前受収受の会計処理もしていないことが認められるから、前記通達を適用するに由なきものというべきである。

(4) 以上のとおりであるから、被告が、原告の賃借人に対する前受賃貸料昭和四三年分九九万八、七五〇円、昭和四四年分八万五、〇〇〇円をそれぞれの年分の収入金額に計上し、昭和四五年分に前年分前受賃貸料収入減額分として一〇八万三、七五〇円を計上したことは正当というべきである。

5 以上1ないし4によれば、四ツ谷ビル関係収入金額は、昭和四三年分七六四万六、二七三円、昭和四四年分一、四五七万二、四一九円、昭和四五年分一、三七八万九、五六四円(以上いずれも被告主張額に同じ。)となる。

(三)  公租公課について

1 本件係争各年分における公租公課について、原告記帳額(申告額)が昭和四三年分二九万九、二〇〇円、昭和四四年分七九万八、一七〇円、昭和四五年分八九万三、三七〇円であること、事業の用に供されていないため、右記帳額から減算すべき東区豊前町二―七所在の土地の固定資産税が昭和四三年分八、四五四円、昭和四四年分一万〇、三三五円、昭和四五年分一万二、一六五円であること、被告主張のとおりの昭和四四年分報奨金(記帳額より減算すべき分)が四万一、四一一円であること、昭和四三年分として、計算誤謬により加算すべきものが一、〇三〇円であること、原告は第三者に対し、中村区平池町三丁目三二番の土地の一部を広告立看板(三尺×九尺のもの)用貸地としていたが、右貸地部分は隣地との境界線上に存在する右立看板の柱の存する部分であつて、その面積は僅少であること、右貸地代は昭和四三、四四年分は各九、〇〇〇円、昭和四五年分は一万二、〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。

そして、<証拠略>によれば、右中村区平池町三丁目三二番の土地は約六〇坪弱であり、右貸地部分の外は空地となつていることが認められ、他にこれに反する証拠は存しない。

2 ところで、所得税法上必要経費とは、当該総収入金額を得るために必要な経費に限定されているから(三七条)、一筆の土地のうち、事業の用に供して収入を得ている部分とそれ以外の部分とが存する場合には、これを面積比によつて按分計算して得られた固定資産税額を必要経費に算入すべきものである。

3 本件において、原告は、本件係争各年分の必要経費としての公租公課を算出するにつき、前記中村区平池町三丁目三二番所在の土地一筆分の固定資産税全額(昭和四三年分一万〇、一四〇円、昭和四四年分一万一、六八〇円、昭和四五年分一万二、七五二円)を加算するべき旨主張するが、前記認定のとおり、原告が貸地として事業の用に供している土地は右土地の僅少部分にすぎず、しかも右貸地により得られる収入は右固定資産税額を下廻るのであるから、原告の右算出方法は、必要経費の前記算出方式に適合しないというべきである。

4 ところで、被告は、原告が貸地として事業の用に供している土地部分が前記中村区平池町三丁目三二番の土地のうち僅少部分であり、その部分について按分計算により固定資産税額を算出することが不可能であるため、貸地による前記収入金額と同額を必要経費として計上すべき処理が妥当である旨主張するところ、右処理は、按分計算が困難である本件においては、やむを得ない妥当な方法と認められ、特段原告に不利な取扱いとはいえないから、被告主張の右処理を違法と目することはできない。

してみると、平池町所在の右土地を除く、その余の公租公課は、当事者間に争いがないから、本件係争各年分の必要経費に計上すべき公租公課は昭和四三年分三〇万〇、七七六円、昭和四四年分七五万五、四二四円、昭和四五年分八六万九、二〇五円となる。

(四)  昭和四三、四四年分修繕費について

1 昭和四四年分修繕費中、二四万九、八九〇円については当事者間に争いがない。

2 原告は昭和四三年中に名古屋市東区東大曽根町南三―一六一所在の貸家及び同市西区南押切町三―一五所在の貸家について、昭和四四年中に同市西区南押切町六―一〇所在の貸家及び同市西区隅田町一所在の貸家についての修繕を訴外株式会社吉村工務店に依頼し、同社に対して昭和四三年中に一七万八、一三〇円、同四四年中に一九万六、八一〇円を支払つた旨主張するので、この点について検討する。

<証拠略>によれば、名古屋国税局直税部長の照会に対して、株式会社吉村工務店は、同工務店は、原告の貸家修繕費としていずれも小切手により、昭和四三年六月三〇日に九万四、四〇〇円、同年九月一〇日に八万三、七三〇円(合計一七万八、一三〇円)、昭和四四年六月三〇日に一〇万九、三七〇円、同年七月一五日に八万七、四四〇円(合計一九万六、八一〇円)のそれぞれ支払いを受けた旨回答していることが認められ、また<証拠略>によれば、株式会社吉村工務店は原告宛に、名古屋市東区東大曽根町南三―一六一所在の貸家の修繕費として九万四、四〇〇円を請求する旨の「計算書」(昭和四三年六月一〇日付)及び右金額を受領した旨の昭和四三年六月三〇日付「領収証」、同市西区南押切町三―一五所在の貸家の修繕費として八万三、七三〇円を請求する旨の「計算書」(昭和四三年八月二五日付)及び右金額を受領した旨の昭和四三年九月一〇日付「領収証」、同市西区南押切町六―一〇所在の貸家の修繕費として一〇万九、三七〇円を請求する旨の「請求書」(昭和四四年五月二五日)及び右金額を受領した旨の昭和四四年六月三〇日付「領収証」、同市西区隅田町一所在の貸家の修繕費として八万七、四四〇円を請求する旨の「請求書」(昭和四四年六月一八日付)及び右金額を受領した旨の昭和四四年七月一五日付「領収証」をそれぞれ発行していることが認められる。

しかしながら、<証拠略>によれば、原告が株式会社吉村工務店に交付したとする前記各小切手について、原告の当座預金により決済されていないことが認められ、他に右各小切手が決済されたことを裏付けるべき証拠はない。

また<証拠略>によれば、前記各貸家の入居者は被告の調査に対して、昭和四三、四四年中に右各貸家について修繕の事実はなく、かつ原告に修繕費を負担してもらつたことはない旨申述していること、右各入居者は、修繕費は入居者(賃借人)において負担すべきものと認識しており、過去に右貸家を修繕した時もその費用は入居者が負担していること、昭和四七年五月頃被告係員は株式会社吉村工務店に赴き、前記修繕の事実の有無を調査したが、同工務店より元帳、工事台帳等右事実を証すべき帳簿の提示はなく、同工務店の前記回答内容が真実か否かを確認することができなかつたこと、昭和四二年分確定申告において、原告は株式会社吉村工務店に貸家の修繕をさせたとして、修繕費を必要経費に計上していたが、その事実はなく、被告の指摘を受けて原告もこれを認め、同年分について右計上修繕費を減額した修正申告をなしていることが認められ、これに反する証拠はない。

以上の事実関係に徴すれば、<証拠略>の前記吉村工務店の回答内容、同工務店作成にかかる<証拠略>の前記請求書、領収書の各記載内容はいずれも信憑性に乏しく、措信し難いものといわざるを得ない。

他に原告の前記主張事実を認むべき証拠はない。

3 そうすると、昭和四三年分修繕費は「〇」であり、昭和四四年分修繕費は前記争いのない二四万九、八九〇円である。

(五)  減価償却費について

1 原告は昭和四一年六月一五日事業の用に供していた名古屋市西区隅田町二三―二所在の宅地一四二・九二坪のうち、原告の持分九、八八一分の五、四七六を四、九三二万円で譲渡し、昭和四二年一二月三一日までに同市千種区四ツ谷通三丁目二六番所在の宅地二三二坪を二、五〇〇万円で、同所に建物(四ツ谷ビル)を九、〇〇〇万円で取得し、事業の用に供する見込みであるとして、措置法三八条の六第三項の規定による事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の計算上の特例を受けるための取得価額の見積額の承認申請書を昭和四二年三月一五日被告に提出し、その承認を受けたこと、譲渡資産の旧取得価額は二九万八、六〇五円であり、買換資産の取得価額は合計一億〇、三四五万四、四六〇円(内訳、土地二、五九七万八、七五〇円、建物(附属設備を含む。)七、七四七万五、七一〇円)であること、四ツ谷ビル以外の建物の本件係争各年分における減価償却費がそれぞれ九万二、七四八円であることは当事者間に争いがない。

2 ところで、措置法三八条の六所定の特例の適用を受けた買換え資産については、同法三八条の八第二項によつて準用される同法三八条の五第二項により、同法一四条の規定(新築貸家住宅の割増償却)は適用されない旨定められているところ、原告は、四ツ谷ビルの内、一、二階の店舗及び事務所部分、すなわち非住宅部分について措置法三八条の六第三項の事業用資産の買換えの特例を適用するとともに、あわせて同ビルの三階以上の住宅部分については新規投入資金で取得した新築貸家住宅であるとして措置法一四条の規定による新築貸家住宅の割増償却を適用して申告をしたものであるが、原告は右申告を正当である旨主張するので、まずその当否を検討する。

原告は、四ツ谷ビルの一、二階を店舗と事務所(非住宅部分)、三階以上を賃貸用住宅(住宅部分)として設計し、その構造・用途は明確に区分されており、その建築費も当初から明確に区分計算しておいたものであって、住宅部分は新規投入資金によつて取得したものである旨主張する。

しかしながら、<証拠略>によれば、訴外安藤建設株式会社と原告との間で作成された四ツ谷ビルの工事請負契約書や見積書には建築費を住宅部分と非住宅部分とに区分して計算する旨の記載は全くないこと、原告が被告に対し提出した「取得価額の見積額の承認申請書」には、建物(四ツ谷ビル)建築予定価額の全額が措置法三八条の六の買換資産の特例を受ける旨の記載がなされていること、原告が確定申告書に添付して被告に提出した「不動産所得の収支明細等の提出のお願い」と題する書面(<証拠略>)によれば、原告は五、四四三万三、〇〇〇円(買換資産の取得価額一億〇、三四五万四、四六〇円から譲渡収入四、九三二万円を差引いてこれに譲渡資産の旧取得価額二九万八、六〇五円を加えた数字)を建物の取得価額として減価償却費の計算を行つていること、以上の事実が認められ、右事実によれば、建築費が当初から住宅部分、非住宅部分に明確に区分計算されていた旨の原告の前記主張は採用し難い。

もつとも、<証拠略>(四ツ谷ビルを設計した伊藤建築設計事務所が作成した原告宛昭和四五年一一月一〇日付報告書)には、「工事費総額金七、七四七万五、七一〇円、分類住宅部分工事費金五、四〇四万六、〇二三円、非住宅部分工事費金二、〇三二万九、六八七円、附属設備費金三一〇万円」と記載されていることが認められるが、右報告書は、その文面に照らし、昭和四五年になつて、原告が、同設計事務所に依頼して、住宅部分と非住宅部分について面積による建築費の按分計算をさせたものであることが明らかであり、もとより原告の前記主張を裏付ける資料とはなし難い。

他に原告の前記主張を肯認すべき証拠はない。

以上に認定した事実ならびに、原告は追加工事費六四万二、〇〇〇円を全額非住宅部分建築費に算入しているが(別紙四の(二)「四ツ谷ビルの減価償却費(原告主張額)」参照。)、右工事費は<証拠略>によれば、擁壁工事費であることが認められるから、本来土地の取得費に加算すべきものであること、また原告はエレベーター設置費用を全額非住宅部分の費用としているが(別紙四の(二)「四ツ谷ビルの減価償却費(原告主張額)」参照。)、エレベーターの機能からしてむしろ三階以上の住宅部分の用に供されるものとみるべきであるし、そもそもエレベーターは貸家住宅の範囲に含まれず、割増償却の対象とはならないものであること(措置法施行令七条二項二号)を総合すると、原告が本件申告に際し、四ツ谷ビルの建築費を住宅部分と非住宅部分に区分したのは、右ビル完成後、被告税務署の調査時点において、事業用資産の買換え特例の新築貸家住宅の割増償却の規定を重複して適用することができないことを知つて、重複適用を受ける手段としてなした単に計算上の区分にすぎないものと認めるのが相当である。

原告は、四ツ谷ビルの建築費を住宅部分と非住宅部分に区分したことが単に計算上の区分にすぎないとしても、四ツ谷ビルの取得費全体の金額には誤りがないこと、四ツ谷ビルの住宅部分と非住宅部分とは階層によつて明確に区分することができ、建物区分所有等に関する法律による区分所有登記をすることによつて別個の不動産とすることも可能であること、平面上に隣接したものとして貸家とそうでない建物を取得した場合には各別に特例の適用が是認されるにもかかわらず、本件のような高層建物を取得した場合には、たとえ取得費の区分計算が合理的に可能なときであつても、貸家の割増償却を認めないということは、高層建物が一般化した現在において新築貸家建築の促進を期した割増償却の制度の立法趣旨を不当に制限する結果になることなどを理由に、四ツ谷ビルの住宅部分につき貸家割増償却の規定が適用されるべきである旨主張する。

そこで検討するに、仮に原告が主張するように、四ツ谷ビルの建築費を用途別の面積比によつて、住宅部分と非住宅部分とに区分計算すると、非住宅部分(五五七・七五平方メートル)は一、七五五万五、一〇〇円(建築費の総額74,375,710円×二階までの床面積557.75m2/総床面積2,363.02m2)、住宅部分(一、八〇五・二七平方メートル)は五、六八二万〇、六一〇円(建築費の総額74,375,710円×三階以上の床面積1,805.27m2/総床面積2,363.02m2)及び建物附属設備分三一〇万円となるから、譲渡代金四、九三二万円から、買換資産である千種区四ツ谷通三丁目二六番所在の宅地の取得費二、五九七万八、七五〇円及び右非住宅部分の取得費一、七五五万五、一〇〇円を差し引いてもなお五七八万六、一五〇円の剰余分があることになる。従つて、住宅部分の一部については右譲渡代金によつて取得したことになるから、住宅部分をさらに右譲渡代金によつて取得した部分と新規投入資金によつて取得した部分とに区分しなければならないこととなるが、そうすると、住宅部分について新築貸家住宅の割増償却の規定を適用すべきであるとする原告の主張には矛盾があるといわざるを得ない。

右のような矛盾及び先に指摘した追加工事費やエレベーター設置費用に関する原告の計算の誤りはさて措くとしても、そもそも措置法三八条の六第一項各号に規定する資産のうち「建物」とは、区分所有の場合を除いては、一棟の建物全体をいうのであつて、構造上あるいは利用上区分できるかどうかを問わないものと解するのが相当であり、一棟の建物についてその取得価額を譲渡代金によつて取得した部分と新規投入資金によつて取得した部分とに区分したとしても、それは単に観念的な計算上の区分にすぎず、何ら資産そのものについての区分をもたらすものではないというべきである。

本件四ツ谷ビルは、階層によつて住宅部分と非住宅部分に使用上区分することができるとしても、全体として右にいう一棟の建物であることは明らかであるから、原告が措置法三八条の六の買換えの特例の適用を選択し、その適用を受けることになつた買換資産は、四ツ谷ビル所在の土地と四ツ谷ビルの建物全体(附属設備を含む。)である。

しかして、右資産の買換えに際して、譲渡はなかつたものとして、譲渡所得の課税の繰延べを認められたのであるから、措置法一四条の適用を受ける余地は全くない。

買換資産についてさらに貸家割増償却の特例を認めることは、二重に租税負担を軽減させる結果となり、逆に他の納税者との間に不公平を生ずることになるので、前記のとおり、措置法三八条の五第二項により買換資産については割増償却の特例の適用が排除されているのである。

また、原告は本件において割増償却を認めないことは、区分所有形態で取得した場合や旧資産の譲渡代金で貸家とそうでない建物を新築取得した場合などと対比して課税の不公平が生ずる旨主張するが、買換え取得資産について措置法上の特例の適用を受けるか否か、右適用を受けるとしても割増償却を利用するか、買換えの特例を利用するかは、専ら納税者の自由な選択に任されているから、これによつて各納税者間の利害の調整は図られているものというべきであるし、仮に右のような場合に若干の不均衡が生じるとしても、本件において割増償却を適用すべき理由とはなり得ないことは明らかである。

以上のとおりであつて、本件において、四ツ谷ビルの住宅部分につき新築貸家住宅の割増償却を認めるべきであるとする原告の主張は理由がない。

3 しかして、四ツ谷ビルの本件係争各年分における減価償却費を算出するにつき、措置法三八条の八(買換えに係る事業用資産の場合の取得価額の計算等)・同法施行令二五条の七第三項の各規定を適用して取得価額を計算し、右取得価額を基に、償却方法につき所得税法施行令一二五条による定額法、建物及び建物附属設備の耐用年数につき「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和四〇年三月三一日大蔵省令第一五号)をそれぞれ適用してなした被告の算式(詳細は別紙四の(一)「四ツ谷ビルの減価償却費(被告主張額)」のとおり。)は正当であり、従つて本件係争各年分における四ツ谷ビルの減価償却費は昭和四三年分三四万一、九八〇円、昭和四四、四五年分各六八万三、九六〇円となる。

4 右四ツ谷ビルの減価償却費に前記1の争いのない減価償却費を加えると、本件係争各年分の減価償却費は昭和四三年分四三万四、七二八円、昭和四四、四五年分各七七万六、七〇八円となる。

(六)  以上(一)ないし(五)を総合すると、本件係争各年分における原告の不動産所得金額は、昭和四三年分五三二万七、七七七円(総収入金額九三六万一、一七三円、必要経費四〇三万三、三九六円)、昭和四四年分九七二万三、五二二円(総収入金額一、六五一万〇、六一九円、必要経費六七八万七、〇九七円)、昭和四五年分九四三万六、五二四円(総収入金額一、五九二万三、四六四円、必要経費六四九万八、一八八円)となる。

三  配当所得及び給与所得について

原告の本件係争各年分における配当所得が昭和四三年分二四六万四、九〇二円、昭和四四年分二六〇万五、六二二円、昭和四五年分二八五万五、一二五円であり、給与所得が昭和四三年分二三八万五、〇〇〇円、昭和四四年分四一五万二、〇〇〇円、昭和四五年分四二八万二、〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。

四  以上によれば、原告の本件係争各年分における総所得金額は、昭和四三年分一、〇一七万七、六七九円、昭和四四年分一、六四八万一、一四四円、昭和四五年分一、六五八万四、八九七円であるから、右各金額の範囲内でなされた本件更正処分はいずれも適法というべきである。

第三結論

よつて、本件各更正処分の取消しを求める原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本武 濱崎浩一 原田卓)

別紙 <略>

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